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わたくしんち書斎編

<これは2002年に書いたエッセイの再掲です>

  主婦で物書きをする方にとって、原稿をどこで書くか、は切実な問題だと思う。
 よく「台所作家」などといって、ダイニングテーブルの上で原稿用紙を広げる純文学作家の先生もいらっしゃるが、私は到底真似できない。
 広げたとたん、お菓子やジュースを手にしている息子たちに、原稿用紙がベタベタにされることだろう。おまけに、原稿はほとんどパソコンで書く。まさかダイニングテーブルの上に、パソコンを設置するわけにもいくまい。

 結婚するとき、どうしても自分が創作をするスペースが欲しくて、嫁入り道具として文机を買った。狭いマンションの部屋には、これしか置けなかった。その文机の上に、当時はやっていた小さなワープロを置いて童話を書く。これで、いくつか短編を書くことができた。
 それから千葉県柏市のアパート、一戸建てと移り住む。
「オホホ……。夢の一戸建て。これでやっと書斎が持てる」
 わけがなかった。
 小さな一戸建てでは、書斎など持てるわけもない。文机は処分し、狭いリビングの隅に、小さな事務机を買って置く。そして、その上には、念願のパソコン。
 だが、子育てが佳境になると、パソコンの前に座れる時間が、一日二十分くらいしかない。すぐに子供がまとわりついてきたり、泣き出したりする。今より少し前のパソコンは、立ち上げだけでも、かなり時間がかかったので、ウイーンと唸っている間に、「アウト」となることも多かった。
 おまけに、木造の一戸建ては、冬めちゃくちゃ寒く、夏は暑い。自分だけのために早朝ストーブをたいたり、夜遅くクーラーを入れるのももったいない。
 どうにも落ち着かなかった。

 そして、今回また東京のマンションに転居する。
「オホホ。今度こそ落ち着いた創作スペースを……」
 七畳のフローリングで、北向きの部屋。(書斎に南向きはぜったいダメだ。本が焼けるし、暑いと頭がぼうっとする)
 そして、北側の窓の前に、どーんと私の机。
 だが、となりには、小学4年生の長男の勉強机……。
 うちでは、この部屋を「勉強部屋」と呼んでいる。なぜ、机を一つの部屋にまとめたかというと、色々便利だからだ。
 まず、となりに座って勉強させれば、始終チェックができる。自分の部屋、など与えて引きこもられたら、何をしているかわからない。少年の非行が、日本の子供が、ベッドも机もテレビもある個室を与えられているせいだ、という意見も一時強かったではないか。
 いっしょの部屋に机さえあれば、
「ほら、マル付けは終わったの?」
 などと、すぐに長男を指導することができる。ちなみに、1年生の次男の机はまだない。3年生くらいまでは、自分の机を与えても、何の役にも立たないことが、長男でよくわかったからだ。低学年では、ダイニングテーブルのとなりにすわって勉強をみないと、ちっともはかどらないのである。

 いっしょの部屋に机を置くもう一つの利点は、エアコンを共有できることだ。夏休み、冬休み、ちがう部屋でそれぞれエアコンを使っていたら、無駄でしかたがない。
 こうして、私の念願の書斎、ならぬ「勉強部屋」がついに完成したのである。
 さて、今の私の仕事机は、どういった状況かご説明しよう。ふつうのデスクの上に、手元を明るくできるように、よく動くバイオライト、というスタンドをとりつけてある。そして机の幅が狭いため、向こう側には、一番下の段を机の高さにそろえたスチールの棚。その一番下の段(つまり机と同じ高さ)にパソコンとプリンター。背伸びして届く上の段には、紙類、封筒、むかしの原稿の束、が何段にも積み上げられている。机の横には、文房具や葉書、封筒、メモ用紙の詰まったワゴン。その上に電話兼FAX。そして、壁いっぱいに本棚。私の机は、北側の窓を向いているが、長男の机は、東側の壁を向いている。
 マンションの一番の利点は、冬暖かいことだと思う。暖房をつけずとも、朝四時に起きて二十度近い温度がある。夏は、狭い部屋にクーラーをかければ、すぐ冷える。
 おかげで、創作は、うまくはかどる、はずであった。

 だが、近頃、また新たな問題が浮上している。
 となりで勉強しているはずの長男が、私のワープロ画面をのぞきこんで、こういう。
「ちぇ。ワンパターンだね。堅苦しい話ばっかり。もっと面白い話書けねえの? はやみねかおる、みたいにワクワクするやつ」
 これでかなりグサっときて、しばらく私はフリーズする。そして、ゆっくりと長男をふりむき、こう告げるのだ。
「オホホ。そろそろあなたも、自分の勉強部屋がほしいんじゃない? いいのよ、お部屋分けたって。その方が、やっぱり落ち着くのかしら?」
 この頃、それを真剣に考え始めている、意気地のない母なのである。

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